連載:中小企業施策の重要ポイント~⑤なぜいま、中堅企業の創出が着目されているのか?~

※本記事の内容は、2025年4月13日時点の情報に基づいたものです。

本連載における前回の記事では「令和7年度の中小企業関連予算」や「中小企業関連施策に係る税制改正」から、日本の産業構造が今後どこに向かっていくのかを考察しました。
本日は、「なぜいま、中堅企業の創出が着目されているのか」中小企業施策転換の背景を考えていきます。

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新型コロナウイルス感染症により多くの製品・商品が生産停止・配送遅延されたことは、記憶に新しいのではないでしょうか。

多くの国で工場や製造施設が操業停止や縮小を余儀なくされ、原材料や部品の供給が滞りました。
さらに、国境閉鎖や物流業者の運行制限により製品の輸送が滞り、納期遅延が発生するなど、輸送面の影響もありました。
グローバルサプライチェーンの脆弱性が露呈されたのです。

調達集中リスクが顕在化し、特定の地域・国に依存する形態のサプライチェーンが、パンデミックによって脆弱性を露呈した状況に対し、新型コロナウイルス感染症対策の一つとして、特定の地域・国依存から脱却するための国内回帰が、補助金政策により支援されました。

新型コロナウイルス感染症対策関連予算の執行状況について、令和6年7月2日に、内閣府より約100兆円の財政支出が行われたことが発表されました。

新型コロナの流行が本格化した令和2年度本予算・補正予算だけで総額77兆円。
東日本大震災の復興予算が10年あまりの総額で約32兆円。

これらと比較しても、異次元の財政支出が行われたことがわかります。

この財政支出を基に多額の給付金の支給が行われ、多くの法人が給付金の支給を受けました。
個人事業主においては、「過去に確定申告をしたことがない事業者」が給付金の受給申請を行うために確定申告書を提出しました。
行政の立場から見ると、過去にない規模で国民の経済活動の実態調査ができたことと推察されます。

財政の健全性の点からみると、財政支出が国民経済にどのような効果があったのかが測定されたことと推測され、結果、従業員数の少ない事業者(法人・個人事業主)に対する財政支出の効果が少なく、中堅企業に対する財政支出の効果が大きかったと予測されます。

いま「中堅企業の創出」が着目されている要因の一つではないかと推察しています。

昨今の関税率の引き上げや各国の政治的な思惑を鑑みると、一国に依存するサプライチェーンは我が国の存亡に関わります。
そのため、国内における製造業の回帰が進んでいると推察されます。

また、CO2削減などに対する国際的な関心の高さから省エネルギー対策を講じるための産業の創出も必要な状況です。
前述の産業用地整備の資料で、熊本県や北海道での大規模投資や、蓄電池や自動車(おそらく電気自動車等)が事例として掲載されているのは、こういった産業の創出を推進することを意図しているものと思われます。


国内における産業空洞化・国際情勢を理由としたサプライチェーンの脆弱さは、解決すべき緊急の課題です。
そのための財政支出は、従業員の少ない中小企業への支援から、中堅企業になりうる売上高100億企業を目指せる規模の中小企業への支援へ転換していることが推測されます。
中小企業の経営者は、このような中小企業施策の先読みをして、自社のポジションを確認し、取り組むべき課題を整理しておくことが必要です。

次回は、「100億企業」について見ていきます。