※本記事の内容は、2025年7月3日時点の情報に基づいたものです。
前回の記事では、「100億企業が成長段階で直面する課題とその打ち手」を、設備投資/研究開発の視点で深堀りしてみました。
今回は、「100億企業が成長段階で直面する課題とその打ち手」の深堀り記事第二弾として、事業戦略の実行フェーズにおける組織・人材/M&Aの視点から見ていきましょう。
参考資料は「中小企業の成長経営の実現に向けた研究会」の報告書です。
「組織・人材」の観点

この章では、企業が戦略を実行するために必要な投資 = モノ(設備)、技術(研究開発)、ヒト(人材)への投資のうち、ヒト(人材)への投資について見ていきましょう。
※モノ(設備)への投資・技術(研究開発)への投資については、前回の記事参照
■ 売上高1〜10億円
この段階では、持株比率を含め創業者が全体を掌握しており、他の役員や従業員の当事者意識が低下しやすい傾向があります。
売上拡大が人材確保に先行することで慢性的な人手不足であり、特にバックオフィスは手薄になりがちで、成長の壁に直面しやすくなります。
打ち手としては、
・役員/従業員持株会の設立や役割の明確化による、他の役員や従業員の当事者意識醸成
・中途採用の強化
が挙げられます。
経営者が経営に割く時間を確保するためにも、意識的に業務から少し距離を置くことも重要です。
■ 売上高30〜50億円
この段階にあっても、創業者が経営の大部分を掌握しているため、経営に自制が効きにくいといった課題は残ります。
一方で部門が増えるため、「部門を任せられる人材」の獲得・育成がより重要度を増し、特にCFO(財務の責任者)やDX人材の必要性が高まるフェーズです。
打ち手としては、
・持株会の持株比率の増加、外部株主の参入により、経営判断の合理化を行う
・経営企画の設置等、組織化を行う
・部門長の事業戦略への関与度を上げる
・新卒採用を拡大する
・研修等の活用によりDX人材を育成する
などが挙げられます。
「人材の獲得」という点では、M&Aも有効な手段の一つです。
■ 売上高70億円以上
この規模では、マネジメント層の「視座の高さ」が企業全体の成長を左右します。
既存事業の実務全般を任せられる中核人材の確保・育成が重要です。
CFO(財務の責任者)の重要性は依然として高く、DXを加速させるため、「DX人材を育成する人材」も必要となってきます。
打ち手としては、
・高賃金でハイクラス人材を確保する(DX人材含む)
・中核人材へ育成する
・副業/兼業人材を活用する
などが挙げられます。
「M&A」の視点

前章の「人材獲得の手段」としてM&Aがありました。
この章では、M&Aの視点から「課題と打ち手」を見ていきましょう。
■ 売上高1〜10億円
この規模の企業では、M&A経験が乏しく、知識や情報、人脈も限られがちです。
一方、中小規模企業ならではの「自社固有の販売チャネル」や「ユーザー接点」は強みとなり得ます。
グループ傘下に入ることで、販路や資源を補完し、売上拡大を図るのも一手です。
■ 売上高30〜50億円
この段階になると、既存の製品・サービスの規模では、売上拡大は頭打ちとなり、新たな市場シェアの獲得が必要となります。
成長に合わせて、新たな知識・人材も必要となりますが、自社のみでは不足しがちです。
マーケットの限界を打破し、同時に知識・人材も獲得するため、まさにM&Aが有効です。
■ 売上高70億円以上
複数回のM&Aを経験する一方で、PMI(買収後の統合)が重要テーマとなります。
・事業部門の機能のみならず、人事労務、会計財務、法務の機能も統合する
・全社的な視野を持つ人材によるマネジメント体制を確立する
などの打ち手により、各種統合をどれだけ戦略的且つスピーディーに実現できるかが、M&Aの成否(シナジーを生み出せるか)を分けます。
今回は、「100億企業が成長段階で直面する課題とその打ち手」を、組織・人材/M&Aの観点からみてきました。
次回の記事では、資金調達の観点から「課題とその打ち手」を深堀りしていきます。