連載:中小企業施策の重要ポイント~⑩100億企業の成長パターン~

※本記事の内容は、2025年6月21日時点の情報に基づいたものです。

前回の記事では、「100億企業の特徴」を見てきました。

本日は、100億企業の成長パターンについて、「中小企業の成長経営の実現に向けた研究会」の報告書をベースに見ていきましょう。

報告書では、「サプライチェーン上のポジション・業種ごとに、特徴的な成長パターンが存在する」と分析しています。

サプライチェーンとは、原材料の調達から製造・流通を経て、最終的に消費者に商品やサービスが届くまでの一連の流れを指します。
この一連の流れの中で、企業はそれぞれの役割に応じた戦略的判断を求められます。

本記事では、以下の3つのフェーズに分けて、成長パターンを見ていきます。

  • 生産(モノづくりの段階)
  • 流通(モノを届ける段階)
  • エンドユーザー近接(最終消費者・利用者との接点)

生産フェーズは、原材料や部品をもとに製品を作り上げる工程で、主に製造業が該当します。

この段階では、有形固定資産(工場・設備)への投資や研究開発への投資が成長のカギを握ります。

大量生産体制を確立するためには、機械や工場への先行投資が不可欠です。
また、差別化された商品を開発するには、継続的な技術革新や研究開発も求められます。

有形固定資産投資の例

  • 食品製造業:自社ブランド製品の展開
  • 化学工業:OEM供給と自社企画製品の両立
  • プラスチック製品製造業:垂直M&Aによるサプライチェーンにおけるポジションの拡大
  • パルプ・紙・紙加工品製造業:海外生産拠点を活かしたコスト競争力、レジリエンスの確保
  • 金属製品製造業:自社ブランド確立

研究開発投資の例

  • 生産用機械器具製造業:製品開発力強化により競争優位を構築

このように、生産フェーズを担う企業においては、「設備」か「技術」かという2つの成長軸が差別化ポイントになります。

「流通」フェーズでは、製品を市場に届けるための物流、卸などのプレイヤーが活躍します。

このフェーズを担う企業には、海外需要対応型か国内需要対応型かといったそれぞれの役割により、異なる成長戦略が存在します。

海外市場では「輸出」や「海外販路開拓」が重視され、国内市場では「効率性」や「サービス力」が求められる傾向にあります。

海外需要・輸出企業の例

  • 機械器具卸売業:加工精度向上と営業力強化によって高付加価値取引へ
  • その他の小売業:販売方法の工夫と海外展開により新たな市場を開拓

国内需要・労働集約型企業の例

  • 飲食料品卸売業:多角化や垂直統合M&Aでサプライチェーンにおけるポジションの拡大
  • 道路貨物運送業:荷主への付帯サービス強化による高付加価値化

このように、「流通」フェーズを担う企業は、「どこに届けるか(海外 or 国内)」と「どう届けるか(コスト・サービス)」という観点で成長戦略を描くことが重要です。

サプライチェーンの最終地点が「エンドユーザー近接」です。
エンドユーザーに直接価値を届ける業種がこのフェーズを担い、BtoC(一般消費者)やBtoB(法人向け)のサービス業・小売業が主に該当します。

このフェーズで特に重要なのが「顧客との接点」です
他社と差別化するためには、商品そのものだけでなく、販売方法やサービス体験の工夫が求められ、「顧客のニーズをいかに捉え、迅速に応えるか」が成長の決め手となります。

BtoBサービス企業の例

  • 情報サービス業:自社開発によって独自性を打ち出し、顧客ニーズに最適化

BtoCサービス企業の例

  • 飲食料品小売業:販売方法の工夫により集客力を強化
  • 飲食店:水平M&Aによってスケールメリットと効率性を実現

このように、「エンドユーザー近接」企業は、現場での顧客対応力やブランド体験の設計力が差別化のカギとなります。


今回は、「100億企業の成長パターン」についてみてきました。

サプライチェーンの中での企業の立ち位置によって、成長のために取るべき戦略は大きく異なります。
成長を目指す経営者は、自社のポジションをサプライチェーン上で正確に把握したうえで、

  • 資本投下すべき領域はどこか?
  • 海外展開か国内需要特化か?
  • 自社ブランド構築 or OEM供給か?

といった選択肢を戦略的に選び取ることが求められます。

次回の記事では、「成長段階の課題と打ち手」を考えていきます。

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